天狗党

水戸藩の尊皇攘夷派

天狗党檄文 編集

 尊王攘夷は神州之大典なる事、今更申迄も無候得共、赫々たる神州開闢以来皇統綿々御一姓、天日嗣を受嗣せられ、四海に君臨ましまし、威稜之盛なる實に萬國に卓絶し、後世に至ても北條相州之蒙古を鏖にし、豐太閤之朝鮮を征する類、是皆神州固有之義勇を振ひ、天祖以来之明訓を奉ぜし者にして、實に感ずるに餘りあり。東照宮、大猷公には別て深く御心を被為盡、數百年大平之基を御開き被遊候も、畢竟尊王攘夷の大儀に本づかれ候儀にて、徳川家之大典、尊皇攘夷より重きは無之様相成候は、實に由々敷事ならずや。然るに方今夷狄之害は1日1日に著しく、人心は目前の安を偸み、是に加るに姦邪勢に乗じ、庸儒權を弄し、内憂外患日増に切迫致し、叡慮御貫之程も無覚束、祖宗之大訓振張之期も無之、實に神州汚辱危急今日より甚しきは無之、假初にも神州之地に生れ、神州の恩に浴するもの、豈おめおめと傍觀坐視するに忍んや。僕等幸に神州之地に生れ、又幸に危難之際に處し候上は、不及ながら一死を以國家裨補し、鴻恩之萬分に報じ可申と覚悟仕候。仍て熟慮致候處、必死之病は固より尋常薬石の療する所にあらず、非常之事をなさざれば、決て非常之功を立る事を得ず、況や今日に當り上は聖主の宸襟を奉尉、下は幕府之英斷を助け、従来の大汚辱を一洗するの於をや。是に於て痛憤難黙止、同志之士相共に東照宮之神輿を奉じ、日光山に相會す。其志誓て東照宮之遺訓を奉じ、姦邪誤國之罪を正し、醜虜外窺之侮を禦ぎ、天朝、幕府之鴻恩に報ぜんと欲するにあり。嗚呼、今日之急に臨み、誰か報効之念なからんや。又誰か夷狄之鼻息を仰ぎ、彼が正朔を奉ずるに忍んや。既に報効之志を抱き、又夷狄狡謀を憤利ながら、おめ々々として因循姑息に日を送り、徒らニ神風を待候儀、實に神州男子の耻ならずや。冀くは諸國忠憤之士、早く進退去就決し、同心戮力し、上は天朝に報じ奉り、下は幕府を補翼し、神州之威稜、萬國に輝候様致度、我徒の素願全く此事にあり。東照宮在天之神霊御照覽可被遊、夫将た何をか陳せん。