「五来欣造」の版間の差分

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* 現代に於ける社会革命の脅威が、世界を支配して居るのも、等しくこれ資本主義に現れたる上流階級の利己主義にその原因を発する。従ってその救済策も亦、その資本家階級に犠牲を説き、義務を教へる事に在る。是れフランスに起った社会連帯主義の主張の精神であって、今日に於てこの主張が最も時弊に適中するのは之が為である。
* この上級階級に義務を教ゆると云ふ点が、儒教と社会連帯主義の共通点であって、これ以外に今日の革命主義の脅威に対して、世界を救ふべき良剤は無いのである。近時世界大戦後に於て、儒教の研究が再び西洋に擡頭し来つたといふ事は、要するに西洋文明の権利主義、利己主義に対する東洋文明の義務心、殊に上層階級の犠牲を教ゆる特長に着眼しつゝある世界の傾向を暗示するものではあるまいか。
* 啓蒙専制主義発生の第一原因は、当時の専制政治の腐敗に対する薬剤として、此新政治体系が必要であった事、第二原因は当時の独逸の如き貴族の勢力の盛んな国家には、此政治体系が社会統一に必要な圧力を提供せしこと、第三原因は、当時宗教が腐敗した為め、精神統一の権威を失って、非宗教的風潮が盛んとなったのに対し、啓蒙専制主義は之に代るべき社会的新理想を提供したこと是である。
 
== 『雄弁』 「日米戦ふの日ありや否や―本誌主催学生大討論会」(1930年, 8月号) ==