「ロシアの南下政策」の版間の差分

* このムルマンを差措いてリバウに海軍根拠地をおくといふ呪はれた決定は、極めて悲しむべき結果をもたらした。私はかへす返すも残念であった。なぜあの時、私はムルマン築港の命令発布を皇帝につよく勧めなかったのであらう。<br> いろいろな機会から、私は次のやうな教訓をえた。──相手の迷ってゐる時は殊にさうだが、機会を掴むことが最も大切である。一旦機会を逸したら最後、肝腎なことまで逸してしまふものだ、と。<br> 私が、この決定は重大な結果を齎したといふ理由はかうである。もしあの時[[ニコライ2世|ニコライ二世帝]]がムルマンに海軍根拠地をおく勅令を発布したら、屹度、彼自身それに熱心になったであろう。さうすれば恐らく[[ロシア]]は極東の大海洋へ出ようなどとは考へなかったであらう。従ってあの不幸な冒険（旅順港奪取）もしなかったであらう。さらにそれから──あの対馬大海戦へまでも引きづられて行きはしなかったであらう……。 -- [[:w:セルゲイ・ヴィッテ|セルゲイ・ヴィッテ]] (帝政ロシア政治家)著、[[:w:大竹博吉|大竹博吉]]訳『ウイッテ伯回想記 日露戦争と露西亜革命 上』(1931年)