前田夕暮
日本の歌人
まえだ ゆうぐれ。日本の歌人。本名:前田洋造(または洋三)。
作品
編集収穫
編集- 魂よいづくへ行くや見のこししうら若き日の夢に別れて
- 君ねむるあはれ女の魂のなげいだされしうつくしさかな
- 木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな
- 秋の朝卓の上なる食器(うつは)らにうすら冷たき悲しみぞ這ふ
- 若竹は皐月の家をうらわかき悲しみをもてかこみぬるかな
- 風暗き都会の冬は来(きた)りけり帰りて牛乳(ちち)のつめたきを飲む
生くる日に
編集- 雪のうへに空がうつりてうす青しわがかなしみぞしづかに燃ゆなる
- 沈思よりふと身をおこせば海の如く動揺すなり、入日の赤さ
- ムンヒの「臨終の部屋」をおもひいでいねなむとして夜の風をきく
- 向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちいささよ
- 我がこころの故郷つひにいづかたぞ彼の落日よ裂けよとおもふ
原生林
編集- 蜜蜂のうなりうづまく日のもとをひっそりとしてわがよぎりたり
- 鉱石を運ぶ索道のバケットのはろばろと来たる雪空のもとを
- ひたむきに空のふかみになきのぼる雲雀をきけば生くることかなし
- 洪水川(でみづがは)あからにごりてながれたり地(つち)より虹の湧き立ちにけり
水源地帯
編集- うしろにずりさがる地面の衝動から、ふわりと離陸する。午前の日の影
- 自然がずんずん体のなかを通過する---山、山、山
- 野は青い一枚の木皿---吾等を中心にして遙かにあかるく廻転する
富士を歌ふ
編集- 雪あらぬ富士の全面に翳はなし粗放厖大にして立ちはだかれり
- 裏富士のかげりふかくして旗たつる家あり兵のいでたらるならむ
耕土
編集- あいあいと人の子の泣く声ひびきみなかみ青き麦畑のみゆ
- 戦ひに敗れてここに日をへたりはじめて大き欠伸をなしぬ
- チモールに病めるわが子を歎かへる吾ならなくに坂道くだる
- 山蔭に人をいたぶる声きこゆその声石の泣くがに悲し
- 山原は荒れ寂びにけり稗稈の日に干されたるひそけさをみよ