宇津ノ谷峠
静岡県静岡市駿河区宇津ノ谷と藤枝市岡部町岡部坂下の境にある峠
引用
編集- 宇津の山にいたりて、わが入らむとする道は、いと暗う細きに、つたかへでは茂り、物心ぼそく、すずろなるめを見ることと思ふに、
修行者 あひたり。「かかる道はいかでかいまする」といふを見れば、見し人なりけり。京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。
駿河なる宇津の山べのうつゝにも夢にも人にあはぬなりけり --『伊勢物語』 - 宇津の山越ゆる程にしも、阿闍梨の見知りたる山伏行きあひたり。「夢にも人を」など、昔をわざとまねびたらん心地して、いと
珍 かに、をかしくも哀 にもやさしくも覚ゆ。急ぐ道なりと言へば、文もあまたはえ書かず。たゞやむごとなき所一つにぞ、音信 れ聞ゆる。
我が心うつゝともなし宇津の山夢にも遠き都恋ふとて
蔦楓 時雨れぬ隙 も宇津の山涙に袖の色ぞ焦がるゝ --阿仏尼『十六夜日記』 - 宇津の山を越ゆれば、蔦楓は茂りて、昔の跡絶えず。彼の業平が
修行者 にことづてしけむ程は、何処 なるらむと見行く程に[中略]峠といふ所に到りて、大きなる卒塔婆の年経にけると見ゆるに、歌ども数多書きつけたる中に、
吾妻路はこゝをせにせむ宇津の山あはれも深し蔦のした道
と詠める、心とまりて覺ゆれば、其の傍に書きつけし、
我もまたこゝをせにせむ宇津の山分けて色あるつたのした露 --『東関紀行』