伊勢物語
日本の平安時代の歌物語
『伊勢物語』よりの引用
- 第七段 かへる浪
- 第九段 東下り
- むかし、おとこありけり。そのおとこ、身をえうなき物に思なして、京にはあらじ、あづまの方に住むべき國求めにとて行きけり。もとより友とする人ひとりふたりしていきけり。道知れる人もなくて、まどひいきけり。三河の國、八橋といふ所にいたりぬ。そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つわたせるによりてなむ、八橋といひける。…… その澤にかきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字を句の上にすへて、旅の心をよめ」といひければ、よめる。
- 唐衣きつゝなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思
- 猶行き行きて、武藏の國と下総の國との中に、いと大きなる河あり、それをすみだ河といふ。その河のほとりにむれゐて思ひやれば、限りなくとをくも来にけるかなとわびあへるに、渡守「はや舟に乗れ。日も暮れぬ」といふに、乘りて渡らんとするに、みな人物わびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さるおりしも、白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水のうへに遊びつゝ魚をくふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡守に問ひければ、「これなん宮こ鳥」といふを聞きて、
- 名にし負はばいざ事問はむ宮こ鳥わが思ふ人はありやなしやと
- とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。
- 筒井筒
- つつゐつのいづつにかけしまろがたけすぎにけらしな妹みざるまに
- 風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ
- つひにゆく道
- その他